• 投稿カテゴリー:コラム

 相模原市の岩橋英遠のアトリエを訪ねた時、「えべおつリンゴ」と記されたダンボール箱が机のそばに置かれていて嬉しく思ったことがある。親戚の方だろうか、ふるさとの果実を英遠のもとに送っていたのだろうか。

 自分も毎年、江部乙の果樹園を訪ね、本州の親戚や友人にリンゴ箱を送っている。江部乙の香りを届ける年中行事である。

 子ども時代、積み重なった「りんご箱」が遊び場であった。秘密のアジトをつくったのである。大きな積み木のように木製の長方形の「りんご箱」は重宝であった。不思議なのは、こうした遊びをとがめる持ち主がいなかった。江部乙は子どもの遊びに寛容で、大人たちから叱られた記憶が、あまりない。

 江部乙屯田兵は入植とともにリンゴ栽培に励んだ。これが成功して「えべおつリンゴ」は一時隆盛を誇った。丸加高原に600ヘクタールの果樹園が広がり、丘陵地をリンゴの甘い香りで満たしていた。

散策阿弥 北辰振興会理事